日本経済論入門

変化する日本経済

日本経済の変遷

日本経済の特徴を分析するには、過去と比較して現在はどう変化したか、外国と比べて何が違うのかを見るとよい。日本経済が急拡大したのは1950年代、60年代で、製造業の拡大によってもたらされた。製造業は生産設備の大規模化、生産技術の発展、効率的な生産管理手法の開発によって安く大量に生産することが可能になり、家計がそれを消費することで、国内総生産を拡大させた。その後、幾度かの不景気を乗り切って国内経済が十分に成熟すると、今度は海外輸出を伸ばし、国内で生産したものを輸出し、所得を稼ぐことになった。昔は鉄鋼、造船、化学が、その後はエレクトロニクス、機械、自動車が基幹産業となった。90年ごろまで経済は成長を続け、90年を境に景気後退となり、95年ごろに回復に転じるが、その後は成長が止まった状態が続いている。95年ごろを境にインフレからデフレに転換した。

高度成長時代

日本の経済成長は、60年代、70年代に起こった。もともと当時は戦後の復興から間もなく、先進国を目指して成長余地は大きかったが、実際に成長するには、要因がある。この成長要因は、①人口分布、人口の地理的分布の変化、②産業構造の変化、③国際経済の変化の3つが重なったものである。一つ目の要因は、人口の増加、特に若年層の増加である。若年層の増加は、労働力人口の増大により、第二次産業への労働力の投入増につながった。人口が増えれば、商品の購入市場も大きくなる。住宅の購入が増え、その中に置く家電製品が増える。生活水準の向上で、1人当たりの購入量自体も増える。当時は団地がたくさん建設されるようになり、若年層や地方出身者の受け皿となった。企業は、もともと人口が他国に対して比較的多いので、国内市場だけを相手にしても、十分大きい。若年層は第二次産業に雇用され、賃金の上昇により、購買力が上昇し、国内市場も増大していった。産業が第一次産業から第二次産業に代わる過程で、農村部の人口が都市部に移動し、核家族化した都市部人口の増大は住宅需要、生活用品需要を生み出した。第二次産業は、労働者を集めやすくなり、第一次産業から第二次産業への移行が急速に進んだ。生産性は、農業より製造業が高く、労働集約型産業が、やがて資本集約型産業が成長した。産業構造の変化では、第一次産業から生産性の高い第二次産業への移行が高成長に寄与した。

安定成長時代

第二次産業の中では、労働集約型産業から資本集約型産業へ、製造業では企業規模の増大による「規模の経済」効果が強く、企業の大型化、輸出の増大が成長を押し上げた。製造業では、すでに米国等先進国で開発された技術を導入し、それを外国より安く販売することで競争力を得た。日本では品質管理が進み、同じような製品でも、外国製より故障せず、価格も少し安いことが競争できた。国内大企業では、ロボット化によるコスト削減も進んだ。技術導入、製造経験による学習効果で、国内市場が成熟しても、海外進出で輸出を伸ばし、成長を保った。これにより、日本経済の成長エンジンは、技術力、高品質の製品を生み出す大企業製造業による国内市場の充足、海外市場進出だった。GDPは高度成長時代は7から8%、その後3~5%程度の安定成長時代となった。GDPの成長に寄与したのが、企業の設備投資と輸出である。生産量の増大は、投資需要を生み出し、製造業の機械化、資本集約型産業への移行を通じて、資本蓄積が行われた。資本蓄積により生産性が向上し、国内消費と輸出を伸ばした。資本の一つである不動産価格が上昇していった。資産価格の上昇は、融資の拡大と繋がり、さらに投資を誘発していった。転機となったのが、90年のバブル崩壊で、その後は長期低迷時代となっている。

バブルの発生と崩壊

85年から90年の間に、資産価格が急上昇した。特に株価、不動産価格が上昇した。GDPも成長したが、5%程度で、高度成長時代と比べれば高い数字ではない。資産価格の上昇は、含み資産の増大でサイフのひもが緩むという資産効果を生み出し、高額消費、過剰投資となった。消費の活発化は経済にはプラスであるが、消費拡大期待を高め、強気の生産計画を助長しやすい。過剰な設備投資も、それ自体は生産性の向上になるが、投資額が大きい分、非効率となり、投資した割には生産性の向上は低い。量産投資の場合は、販売増が前提となる。不動産投資は、投資分に見合う土地利用が必要であるが、転売目的であるなら、投資分に見合わなくても値上がり益が期待できれば購入需要はあり、価格の上昇は続く。しかし、投資分に見合う土地利用ができないほど価格が上昇すれば、実需の需要はなくなり、価格の下落が始まる。消費は需要の先食いの要素があり、過剰消費は、将来の消費を抑える効果を持つ。経済が何らかのきっかけで下り坂に転じると、過剰な設備は需要分しか生産しないので遊休化し、過剰な労働力は、コスト要因となる。急激に経済が拡大すると、将来期待は高まるが、値上がり益を狙う資産価格を除いて実際の需要は限界があり、やがて経済の拡大は止まる。問題は、一旦止まって、ある程度経済過熱が収まったら、再び安定成長の軌道に戻れるかである。過熱しすぎると、企業は値下がりした不良資産、過剰な設備を抱え、業績の重しとなる。

バブル崩壊後は長期に低迷

バブルは崩壊するとしても、一定期間後に再び安定軌道にのれば、また経済成長を続けることができる。しかし実際は、バブル崩壊後、長期にわたって低迷が続くことになる。企業が抱えた過剰債務の圧縮に時間がかかったためである。需要が回復し売上が上がれば、債務の圧縮に繋がるが、そうでないと債務を圧縮できず、余裕のない企業は新規の設備投資を控えたままとなる。不動産価格は下がり続けた。バブル時代の3つの過剰(過剰な雇用、過剰な設備、過剰な借入)の解消のため、企業は守りの経営(バランスシート調整)を余儀なくされ、研究開発や設備投資など成長投資が控えられた。

輸出型経済と海外進出

時代が進むほど、世界経済はボーダーレス化している。日本では、昔は自国内で経済が循環していた。国内で需要されていたモノは、国内で生産され供給されていた。資源やエネルギーなど、国内で調達できないものだけが輸入され、輸出品は国内で生産されたモノの一部にとどまっていた。国内の人口の増加、生活水準の向上に応じて生産高を増やし経済成長していった。さらに経済が成長するにつれ、工業品の生産高が増えたが、原材料の輸入も増えていった。生産技術が上がり、より大量生産が可能となれば、国内需要以上の生産が可能となる。国内需要で賄う分以上は輸出され、生産者は国内需要制約を受けずに、生産と利益を拡大することができた。このようにして輸入も輸出も増加していったが、国内よりも世界市場は大きく、工業製品の輸出が、輸入よりも大きく伸びた。輸出が増加すると貿易収支は黒字となり、為替市場で円高をもたらした。円高の影響を受けないよう、また低コストでの生産を目的に、大企業を中心に海外進出が進んだ。

デフレが常態化する日本経済

バブル崩壊後、回復するかに見えた日本経済は、98年を境に長期低迷の時代が続いている。実質GDPは1~2%程度の低成長、名目GDPについては、ほぼゼロ成長である。国内市場の特徴としては、人口構成が高齢化していることである。高齢化が最も加速している国といっても過言ではない。高齢化によって労働人口が減少している。これは、生産要素である労働投入量の減少による生産低下を招くだけでなく、賃金を受け取る人の減少で所得水準が下がり、消費の低下も招く。国内市場の縮小は、国内販売が主力である内需型企業の業績を低下させる。第二次産業は輸出に活路を、第三次産業は海外進出に活路を見いだすことになる。企業の海外進出で輸出や海外業績が良くても、国内市場は振るわず、企業の国内設備投資も低迷している。物価はデフレの状態が続いた。

まとめ

歴史的に見れば、日本経済は、

  1. 第一次産業から第二次産業へ、経済が急成長
  2. 軽工業から重化学工業、ハイテク産業へ、経済が急成長
  3. 国内販売から輸出へ、経常黒字が増大、経済が低成長
  4. 製造業が海外移転、第二次産業の比率が下がり、第三次産業が伸びる。経済がゼロ成長

と変遷している。経済は高成長から低成長、そしてゼロ成長と成長率を年々落としている。第一次産業から第二次産業への移行、軽工業から重化学工業、ハイテク産業への移行は高成長をもたらした。国内で消費する以上を生産するようになると、また国内消費が頭打ちになると海外市場での輸出で経済の成長を持続させた。しかし、国内生産のコストの上昇及び円高で輸出の国際競争力が低下すると、国内工場を閉鎖し海外に移転する動きが増加した。余剰労働力は第三次産業に吸収された。第三次産業は拡大したが、その分第二次産業が縮小し、全体としては成長しない状態で今日を迎えている。

統計でみる日本経済

統計で日本経済を見ると、「日本はなぜこの20年間ゼロ成長だったのか」の手掛かりが見えてくる。

国内総生産(GDP)の停滞

日本のGDPは、名目値が、91年まで高成長、97年まで低成長、98年以降は横ばい傾向が続いている。生活実感に近い名目GDPで、10年以上まったく成長しない状態が続いている。実質値で見ると、91年まで高成長、92年以降リーマンショック前まで低成長の時代が続いている。

労働力人口の低下

マクロ経済における潜在的労働力投入量となる労働力人口(生産年齢人口)は、98年を境に、減少傾向にある。そのうち失業者を除いた就業者数でみても、97年ごろをピークに、下降トレンドとなっている。就業者数の低下は、マクロ経済における労働投入の減少による生産量(GDP)の低下を招く。更に給与者の減少で個人消費の停滞の原因となっている。一方、非労働力人口は年々増大してきている。

労働時間の低下

バブル崩壊(1991年)以降、労働時間も減少してきている。マクロ経済における労働投入量は、労働時間×就業者数の値が目安になるが、97年以降は労働時間も就業者数も低下しているので、労働投入量も減少する結果となっている。

雇用者報酬

雇用者報酬は、91年まで大きく上昇し、その後低成長、97年以降は、05~07年に少し持ち直したが下落トレンドである。勤労者世帯の可処分所得で見ても、98年までは上昇だが、98年以は減少している。勤労者世帯の消費支出は、97年を境に、低下傾向にある。消費性向は、98年までは低下、それ以降少し上昇トレンドとなっている。つまり、貯蓄が98年までは増加したが、98年以降は貯蓄に回る分が少なくなっている。

資産価格の動向

地価は、商業地も住宅地も91年をピークにその後ずっと下がり続けている。株価はTOpIXで見ると、90年をピークに、その後は、上下動を繰り返しながらも、上値は一定、下値は切り下げながら推移している。金融資産も預貯金も、98年までは順調に伸びてきたが、98年以降横ばいないし減少傾向となっている。

小売

91年までは大きく上昇、91年~97年は横ばい、98年以降は減少してきている。これは、勤労者世帯の消費支出の動向と整合的である。

米国の動向

推計人口、雇用者数ともに年々増加傾向にあり、雇用者数のように一時的な上下動はあっても、日本のように、長期間下落するようなトレンドの転換はなく、リーマンショック時まではずっと上昇している。個人消費支出も小売売上高もリーマンショック時まではずっと上昇している。 賃金も可処分所得もリーマンショック時まではずっと上昇している。資産価格である株価と不動産を見てみる。株価(Sp500)は、02年の落ち込みを除いてリーマンショック時まではずっと上昇している。不動産である住宅評価額は、07年までずっと上昇している。家計の総資産価格も上下動がありながら平均的にはずっと上昇してきている。資産価格の上昇は、資産効果として個人消費を増大させる原動力となる。

分析

以上の統計を見ると、どの統計も97、98年をピークに減少トレンドに転じたことがわかる。デフレ時代(98年)に入ったタイミングで、労働力人口が減り、就業者数も減り、可処分所得も減少に転じた。このため、家計の消費支出が減り、小売売上高も低下する結果となった。ではなぜ、雇用者報酬や可処分所得が減少に転じたのか。産業別給与総額を見ると、多くの産業が97年以降横ばいないし減少傾向にあるが、特に卸売・小売業飲食店は97年をピークに、大きく減少している。操業度合いを示す労働時間で見ても、卸売・小売業飲食店の下落は大きい。98年以降は他の産業との下落の差が大きくなっている。労働力人口や就業者数の減少などの社会的変化が、個人消費を停滞させ、小売売上高の低下となった。小売業が業績不振となったため、小売業の賃金が低下し、それが可処分所得の減少、さらには個人消費の低下を更に招くといった悪循環に陥っている。

3つの時代

日本経済を3つの時代に分けることができる。最初は1990年までのバブルに向かう高成長時代である。90年までは、経済は右肩上がりで、名目GDPも実質GDPも高成長だった。インフレが進み金利水準も高く、個人所得も消費支出も地価も株価も上昇する時代だった。第二の期間はバブルの崩壊後の低迷期である。90年代前半は経済活動は大きく後退したが、バブルの反動と考えると、日本経済が下降トレンドに入ってるとまではいえない。現に、90年代後半はゆるやかながらも持ち直している。90年から98年までは、バブル直後の落ち込みはあるにせよ、おおむね低成長時代といえる。98年以降は、経済が右肩下がりのマイナス成長時代にはいった。名目GDP、個人所得、消費支出は98年ごろを境に下落トレンドに転換し、物価もデフレの時代となった。

98年が転機

98年から経済のトレンドが転換したのはなぜだろうか。仮説を立ててみる。98年を境に、雇用者報酬、可処分所得が減少に転じている。どの産業が減少したかを見ると、小売業がおおきく減少している。操業度として労働時間を見ると、小売業は減少している。小売業の不振が、可処分所得減らし、消費性向は変化しにくいので、そのまま消費支出の低下、預貯金の減少をまねいたのではないか。消費支出の低下は小売売上の低下となるので、悪循環で小売の不振をさらにもたらす結果となった。所得減少、消費減少、小売不振が同時に出現したが、最初のきっかけは何であったであろうか。

人口統計学的要因

賃金は年齢に応じて変化する。いわゆる賃金カーブ。50歳をピークにその後減少し、61歳以降は大きく減少する。マクロで見た雇用者報酬は、各年代の平均賃金にその年代の人口を掛け合わせ加算したものである。よって、雇用者報酬の全体額は、年齢別人口と年齢別賃金の時間変化に影響を受ける。90年代以降、人口構成で高齢化が進んでいる。最も人数の多い世代が、98年ごろに50歳を超えたなら、賃金カーブから考えて、雇用者報酬の全体額が減少する。これがきっかけとなって、所得減少→消費減少→小売不振→所得減少の悪循環が起きた原因と考えられる。

日本の製造業

日本の特徴としては、日本経済は製造業の影響を受けやすいことである。特に輸出産業である自動車、電機、機械の業績や企業行動が経済全体に影響を与える。第三次産業が伸びても製造業の輸出の国際競争力の低下、工場の海外移転による製造業の縮小が経済の足かせになっている。

製造業の変遷

日本の製造業は、戦後、外国からの技術導入により力をつけ、農村人口の都市部への流入による安価な労働力の確保、国民所得の向上や企業の発展による国内市場の拡大により、生産量を拡大させていった。国内需要が頭打ちとなっても、輸出によってさらに生産量を伸ばし、技術革新による生産性向上も相まって、日本の製造業は日本経済の中核的存在となった。日本の製造業の特徴は、①勤勉な労働力による高品質な製品の生産、②自動化・ロボット化や生産工程の継続的見直しによる低コスト化、生産性向上、③精密加工技術やハイテク技術の強みなどであり、国際競争力が高い。近年の少子高齢化で国内市場が停滞する中でも世界経済の発展で輸出が伸び、最近まで日本経済をけん引してきた。 しかし、最近、製造業自身の問題、製造業を取り巻く環境変化で、強みとされてきた日本製造業の特徴が失われ、国際競争力を失いつつある状況にある。この点を分析してみよう。

国際競争力の低下

一番の課題は、製造業の国際競争力が落ちていることである。人件費はいったん上昇すると、なかなか下がらない。経済大国となった日本の人件費は国際的に見て高くなっている。特に、同様な工業品を輸出して「競合他社」となっている中国・韓国・台湾と比べて差が顕著である。新興国で製造業が発展する前は、工業製品は先進国で作られていた。先進国の中で比較的日本の製造コストは安く生産技術は高く、他の先進国が作る同様な製品であっても安く高品質だった。このため、国際競争力が高く先進国への輸出を伸ばしてきた。また、生産技術の高さは、海外で生まれたアイデアをいち早く商品化し、安く大量に提供できた。独創性やアイデアで他国より先んじることができなくても、商品化と販売で優位性があった。しかし、新興国でも日本で作っているのと同様な製品が作れるようになりました。新興国は日本よりも製造コストが安く、先行していた日本を追い上げ追いつくまでになった。日本は、新興国では生産できない高度で先端的な製品を生産できれば棲み分けが可能であるが、現状では新しい製品を見つけられないでいる。

製造業を取り巻く環境変化

新興国の経済成長の結果、新興国でも製造業が発達し、機械化・大規模化が進んだ。新興国では国内市場よりも海外市場をターゲットにしている場合が多く、世界市場で日本製品と競合するようになった。それでも日本の製造業は海外への輸出を増やしていったが、海外でも日本国内と同様な品質の製品が作れるようになったこと、より人件費の安い、より消費地に近い場所に生産拠点を設ける動きが加速したことにより、工場の海外進出が進んだ。輸出と海外進出が増加するにつれ、海外で稼いだドルを円に換えて国内に還流させる動きが拡大し、円高が進んだ。円高によって、国際競争力が低下すること、ドル建てで見た人件費が増大することにより、国内製造業はますます厳しい環境におかれるようになった。

製造業自身の問題

日本の技術は、長い試行錯誤や熟練の積み重ねで蓄積されたもので、労働者による加工技術、製造機器の最適化、部品の組み合わせ技術、高い製造技術による軽薄短小化、製品の品質管理や調整・仕上げが強みであった。しかし、最近のデジタル技術を中心とする技術革新の結果、ハイテク部品の単純な組み合わせでハイテク製品を容易に作れるようになった。日本以外の国でも同様な品質の製品を作れることは、国際市場で単純な価格競争に陥ることとなった。人件費以外の原材料やエネルギー、機械設備などは価格差がないが、新興国の人件費は、日本より大幅に安く、人件費の差がそのまま価格競争力の差となった。

産業の空洞化

産業の空洞化が進んでいる。この問題は、20年以上前からあったが、この10年更に加速している。産業の空洞化は、国内の製造業が海外に工場を新設するだけでなく、併せて国内工場の縮小、廃止を行うことだ。企業は成長拡大を志向するので、海外進出は自然の流れであるが、国内工場の縮小、廃止を伴えば規模拡大というより生産移転となる。企業にとっては、生産の最適化により収益の拡大を狙ったものであっても、国内経済にはマイナスである。第一に、工場従業員等国内の雇用を失わせる。第二に、国内工場への納入業者、工場の出荷を受ける流通業者など、工場からの受注がなくなる。第三に、工場がなくなれば、従業員を対象顧客とした商業施設、不動産が影響を受ける。自治体は、人口減少だけでなく工場からの納税も少なくなる。このようにマイナスの影響をもたらす工場移転も、近年の為替の円高、新興国との競争、世界規模での生産拠点の最適化の流れの中で、輸出型製造業では避けられないトレンドとなっている。よって問題は、工場の海外移転よりも、製造業が移転した場合、雇用の受け皿となる製造業以外の産業、サービス業等が吸収してあまりある状態になっているかである。

日本が高度成長時代、農業従事者が減少したが、製造業が受け皿となった。農業が縮小し、押し出された労働力を製造業が受け入れたというより、製造業の発展で、農業人材を引っ張る形で大量に吸収したのである。ただしその結果、地方から都市部へとい人の流れが起きて、地方は過疎化したのである。生産性の低い農業から生産性の高い製造業への労働力の移転は、日本経済全体ではプラスとなった。過疎化した地方は、経済の発展につれ増大する税収を地方に重点配分することで過疎化のマイナス面をおぎなってきた。一方、近年の産業の空洞化では、サービス業での雇用の受け皿もなく、生産性の高い製造業から更に生産性の高いサービス業が見いだせず、企業の海外移転では税収も増えず、製造業の移転を補うことはできない状況にある。しかし、グローバル化の流れは避けようがなく、問題は、製造業の移転よりも、受け皿となる雇用吸収力のあるサービス業がない、移転する製造業よりサービス業の方が生産性が低いということである。人口が減少しているため、サービス業の代表格である商業、卸売業、飲食業の高成長は望めない。生産性を上げるにしても方法が思いつかない。IT化は十分進んだし、IT化の効果に確証が持てない。

ワンワールドエコノミー

世界経済のグローバル化が進んでいる。過去は、それぞれの国で閉じていた経済だった。輸出や輸入が少なく、外国からの投資も外国への投資も少なく、国内で生産し国内で消費する。そこでは、外国と賃金や物価水準を比較することはなかった。グローバル化とは、個々の国の中で経済の循環が起きるのではなく、国境を越えて、財やサービス、資金がやりとりされるという世界全体で一つの経済循環が形成される動きをいう。世界全体が一つの経済圏となるのであれば、企業は今までその国の中で生産場所、販売場所を最適化してきたものを、世界の中で、生産場所、販売場所を最適化することになる。最適化とは、最も利益が期待できる販売場所を選定し、流通経路を考えながら、技術力、インフラ設備を考慮しながらも最も生産コストの安い場所で生産するのである。もちろん場所選びは、売り上げとコストの面だけでなく、政治体制、治安、制度、法律、規制、技術水準、インフラ設備の状況、今後の経済動向等、考慮すべき点はいくつもある。一般に人件費の安い新興国では、考慮点が多かった。しかし近年は、このうち、外資誘致策による制度、法律、規制面での障壁の除去、インフラ設備の整備、技術導入、製品のモジュール化、生産機械の輸入による技術力の向上により、低い生産コストで技術的に先進国での生産と同等の生産が行えるようになった。となれば、世界全体での最適化は更に進む。生産した所で消費するという「地産地消」も、流通コストを極力減らす最適化の例である。

このような動きの中で、日本では、製造業の海外移転が進んでいる。日本より生産コストの安い国で生産するのである。日本経済は、初めは国内で生産し国内で販売してきた。その後、国内で消費する以上の生産をし、輸出を拡大させた。国内生産では世界市場での競争力が保てないと考えた企業は、外国に生産拠点を作り、日本に輸入したり世界市場で販売を増加させた。海外には、始めは販売拠点を、その後生産拠点を、更には研究開発拠点も、更に本社機能も海外移転の流れができている。国内生産拠点を残したまま、海外生産拠点をつくるのではなく、国内生産では採算がとれないことが海外生産をする理由であるので、国内生産は規模縮小となった。これが、国内経済を停滞させる原因となっている。日本企業が生産の海外移転海外に生産拠点をつくる作らないに関わらず、外国の企業は、世界全体で生産拠点の、販売拠点の最適化を図り続けている。、となると、日本企業もグローバル化を推し進めなければ、国際競争力を低下させてしまう。そもそも日本企業の海外進出は、外国企業が同じ国に進出したのと変わらない。外国企業が別の外国で事業を行っているのと同じである。グローバル化では、日本の企業、米国の企業の定義付けも難しくなる。単に、本社の所在地が日本、又は米国というだけである。世界の中で、最適な所に本社を、工場を、販売拠点を構えるのである。そういう時代が来ている。日本の企業も、米国の企業も、業績が日本経済や米国経済とは結び付かなくなっている。どの企業も一つの世界市場で競争しているからだ。世界市場の景気動向が業績に影響するのである。人件費の高い日本では、生産拠点としての魅力は薄い。少子高齢化で販売拠点としての魅力も薄い。よって世界市場を目指す日本企業は、国内部門を縮小し海外に出ていく。問題点は、国内部門を残したまま海外進出するのではないことだ。また、グローバル化が進んでも外国企業が日本に進出することがない点である。

デフレ下の日本経済

日本は、なぜデフレ下にあるのか?10年前から日本はすでにデフレ下にある。それまでは、経済成長を続けていた。なぜ成長が止まってしまったのだろうか。昭和30年代から40年代にかけて、経済成長率は10%に近かった。その代わりインフレ率も高く、所得水準の上昇と呼応していたのである。所得も物価も上がることで、企業の売り上げが上がり、投資を呼ぶ。このような経済成長は、40年代の後半の石油ショックの時点まで続いた。50年代に入ると成長率は5%以下となったが、成長はし続けていた。平成に入ると成長は止まり、最近はマイナス成長となっている。過去10年間で日本経済はほとんど成長がなかった。米国経済が、4~5%の成長を続け、欧州が1~3%、中国が7~8%の成長を続けているのに対して対称的である。日本では、この10年間、物価が下落し、デフレーションの状態が続いている。

消費者物価と本当の物価

日本では、95年以降、消費者物価の下落が続いている。世界の国では、通常インフレであり、インフレをどう抑えるかに各国の経済政策があるのに対して極めて特異な状態にある。物価が下がっているということは、消費者からみれば良いことと言えるだろうか。価格が下がれば、より多くの物を購入できる。しかし給料が変わらないならばという前提での話である。消費者の属する家計には、賃金収入が原資となる場合が多い。物価が下がれば売り上げも下がり、それは、企業収益の低下、賃金の低下へとつながる。経済のグローバル化が進み政界経済は一つの市場になりつつある。原材料、エネルギー等の国際商品市場では年々値上がりしている。他国ではインフレに悩まされているのに、日本では消費者物価の下落に悩まされているのはなぜだろうか。ここで、「物価」というものを整理してみる。

物価には、消費者物価、生産者物価、GDPデフレータがある。消費者物価は、消費者が購入するもの、最終消費財や消費者向けサービスの価格動向を、生産者物価指数は、生産者が仕入れるもの、原材料、エネルギー、中間製品の価格動向を、GDPデフレータは、国内で生産された財やサービスの価格動向を示す。消費者物価に影響を与える経済的変化は、①原材料などの国際商品価格が上昇、②食料品・衣類の比率が下がり、娯楽用の耐久消費財の比率が上がる、③サービス業の比率は高まったが他の先進国ほどの上昇がないこと、④価格の安い輸入品の増大、⑤為替の円高の進行、などである。国際商品価格の上昇は、ガソリン価格の上昇など消費者物価の押し上げ効果があるが、主には生産者物価に影響する。耐久消費財比率の上昇は、価格変動の激しい食料品のウエイトが下がることで、インフレ抑制効果となる。また、耐久消費財は、技術革新で性能が上がると、消費者物価の計算上、価格が下落したとみなされ、ウエイトの拡大は物価下落につながる。サービス業は海外製品との価格競争が存在せず、価格下落の抵抗力となる。サービス業の比率が低いと、下落抵抗力がないことになる。人件費の安い新興国で生産された輸入品が増えると、それ自体が消費者物価を下落させるだけでなく、価格競争により国産品の価格下落も誘発する。為替の円高は、輸入品の価格を低下させる。 近年の経済的変化は、消費者物価を下落させる方向で働いている。

しかし、近年の経済的変化は世界、特に先進国のトレンドであり、なぜ日本だけ下落しているのか。これは日本だけの現象ではない。先進国共通の現象である。米国では、80年代は急激なインフレに見舞われた。しかしその後は、インフレ率は低下し続け、現在は2%を切る程度となっている。他の先進国も同様に高いインフレ率だったのが、近年どんどん下がり低インフレの状態にある。日本がインフレ率がマイナスとなっているのは、インフレ率のスタートの位置が他の先進国より低く、他の国同様にインフレ率が低下したので、日本だけがマイナスにまで落ちたからである。もっとも影響したのが、耐久消費財の拡大の効果である。前述したようにこの分野の製品は技術革新が激しい。実際に販売価格が下落しなくても性能が向上すれば計算上、価格低下として計算され、消費者物価は下がることになる。しかし、これは計算上のことで、耐久諸費財を買おうとする消費者が少ない金額で買えるわけではない。実際の販売価格は昔も今もそれほどの変化はないのだ。日本が価格下落で、他国がそうでないのは、日本では、この耐久消費財のウエイトが高いからでもある。これは計算上の理由で、けっして需給バランスが崩れ、需要不足の結果ではない。

需要不足が原因?

需要不足が価格下落を引き起こしているとの主張がよく聞かれる。これを需要曲線と供給曲線で考えてみよう。需要不足とは、供給曲線を固定したまま、需要曲線を左方向にずらすことを意味する。そうすると、需要曲線と供給曲線の交点は、左下に移動する。交点は、市場価格と生産消費量を示すので、価格と生産消費量の両方が下がることになる。しかし、生産消費量を表す実質GDPは、緩やかながらも上昇している。価格が下落し、生産消費量が上昇となる組合せは、需要曲線より供給曲線が下方へシフトした場合に起こる。供給曲線の下方シフトは、生産革新により、可能生産量の増大、生産コストの低減を意味する。新興国からの輸入の増大、為替の円高、生産技術革新が影響している。バブルのころ(90年)は、日本は世界で最も物価の高い国の一つだった。世界の都市での物価ランキングで、東京は常にトップクラスだった。日本国内で経済が閉じている場合、つまり輸出入がない場合は、物価を国際比較する必要がなく、高い人件費、高い給与、高い物価水準の3者が共存できた。しかし、輸出入の増大で経済のグローバル化が進むと、安い人件費、安い給与、安い物価水準の国からの輸入が増え、物価水準は下落圧力がかかる。先進国は低インフレであるのに対して、日本はマイナスとなっているのは、世界一の物価水準の状態からの調整過程であるといえる。

日本の経済成長

経済の成長要因

経済は何によって成長がもたらされるか。ここで成長とはGDPが増大していくこととする。GDPは、消費、投資、政府支出、純輸出で構成されるので、それぞれの要素が増大すればよいが、政府支出は政府の意思で決められること、支出増大は財政の悪化を招くことを考えれば、消費の拡大、投資の拡大、輸出の増大による経済成長が望ましい。それぞれの要素のGDP成長への寄与度に分解したのが成長会計である。日本では、高度成長時代は投資の増大の寄与が大きかった。近年の低成長時代は、成長要因は、輸出の増大である。GDPの変化は、景気の循環を表しているが、その要因は投資の変化と輸出の変化である。個人消費はGDPの6割で最も大きな割合を占めているが変化への寄与は小さい。個人消費は、景気の循環時においても、あまり変化しないためである。米国では、個人消費の割合は7割で、個人消費の動向によってGDPが動く。新興国では、一般に個人消費のGDPに占める割合は低く、成長要因は、投資と輸出の増大によってもたらされる。どの要素が成長に寄与したかは、統計分析で得られるけれども、ではなぜ投資や輸出が増大したか、どうすれば増大させることができるかは、不明である。GDPは生産高を表すので、労働投入と資本投入によって生産が生まれるので、労働や資本を増大させればよい。労働の増加は、人口の増加の、資本の増加は投資の増加の制約を受ける。

少子高齢化と経済成長

少子高齢化の影響は、2つの面で現れる。一つは、労働人口の減少である。資本投入量が変化しなくても労働人口が減少すると、潜在生産量(理論生産量)が低下する。もう一つは、労働によって収入を得る人が少なくなり、家計収入の総量が減少する。収入低下は、家計における貯蓄の減少、消費の減少につながる。たとえば、潜在生産量が100で企業所得が30、家計所得が70、消費が60、投資が20、政府支出及び貿易収支が20としよう。 資本量、科学技術、労働生産性が変化しないと仮定する場合、労働人口の減少で潜在生産量が100から80になったとしよう。需要動向が変化しないならば、企業所得が30→20、家計所得が70→60、消費が60→50、投資が20→15、政府支出及び貿易収支が20→15としよう。家計所得の減少は、統計的には貯蓄率の減少として現れる。所得の減少は貯蓄の減少となる。 生産が減れば、それに対応して投資も減る。民間収支+政府収支=経常収支であるので、政府収支が不変ならば、民間収支(企業所得+家計所得)が減少する分、経常収支も減少する。 これは、資本量、科学技術、労働生産性が変化しないと仮定する場合であり、前期の投資によって資本量の増加、研究開発及び時間経過によって科学技術の進展、教育訓練で労働生産性の向上があるので、所得、投資、消費、経常収支なにもかもが減少するとは一概にはいえない。

経済成長のメカニズム

経済成長は、実質GDPの成長を見る。実質GDPは、個人消費、投資、政府支出、輸出入の合計であるので、実質GDPが伸びたかどうかは、その要素である個人消費、投資、政府支出、輸出入が伸びればよい。過去の統計を見ると、成長へ何が寄与したかが分かる。日本の高度成長時代は、投資が原動力だった。現在の新興国においても、投資がそうなっている。投資は、企業による財・サービスの購入という「消費」の側面だけでなく、投資によって、よりたくさんの製品を生産、ないしはより低コストでの生産が可能となり、輸出の振興や所得の向上につながる。つまり需要と供給の両者の側面を持つ。もうひとつの原動力は輸出である。日本の高度成長時代でも、現在の新興国においても、輸出の伸びは経済成長につながっている。ただし、投資とは異なり、海外需要の伸びで決まる部分が多く、輸出が伸びても将来の供給が改善されて、将来の所得が増えるわけではない。では企業の投資を活発化するには、どうすればよいか。経済学的にいえば、投資は資金調達して行われるので、低金利であれば投資を促すことになる。各国は、経済政策で金利を低下させてきた。投資をするということは、投資額以上のリターンを期待してのことである。資金調達が容易であっても、投資を上回るリターンが期待できなければ、投資は増えない。理論的にいえば、金利を3%から2%にすれば期待リターンが3%以上だったのが、2%以上でよくなるので、投資が増える可能性があある。しかしこれはあくまで確実にリターンが得られる場合で、不確実性がある中では、リターンがマイナスになる可能性もあり、金利引き下げによる投資誘発効果は低いと考える。期待リターンは、収益期待によって形成される。収益期待は、データに裏打ちされたものでなかれば説得力をもたない。収益期待の一つは人口の増加である。一人当たりの消費量が同じならば、人口の増加は、個人消費全体を押し上げる。人口が増加する場合、通常は若年人口が増加する。若年人口は、労働力人口となり給与を得るので消費が活発である。また安価な労働力の提供となる。

生産性向上は経済成長をもたらすか。

日本を経済成長させる原動力として、生産性の向上が叫ばれている。しかし「生産性」の定義があいまいであるため、誤解を生じやすい言葉である。より少ない労力で効率よく財やサービスを生産できれば、コストがかからず生産者により多くの利益が得られるように感じる。一方、より多くのものを生産できるので、需給バランスがくずれ、販売価格の低下を招くことにもなる。さらに同じ生産量を維持するのならば、必要な資本や労働力が減り、労働市場や設備投資への影響も考えられる。そうであっても、生産性を、「同じものを生産するのに必要な資本や労働力」と定義されるのであれば、生産性の向上は、希少性のある資本や労働の有効利用として、より多くの財やサービスの生産が可能となる。しかし、実際の「生産性」の計算は、生産が生み出した付加価値を労働投入量で割った労働生産性や資本量で割った資本生産性で計測する場合が多い。また、付加価値を総投入量で割った全要素生産性で見ることもある。いづれの場合でも、分母は投入量であるが、分子は付加価値となり、付加価値の大きさで影響される。付加価値は、金額単位であり、売り上げに相当する。つまり需要の影響を受け、需要が増大し売り上げが上がれば、「生産性」が向上することになる。つまり「生産性」の向上や低下は、生産技術の変化というよりも、売り上げの変化だったりするのである。生産性が低いと分析される日本経済は、実は不景気で売り上げが下がっていることが計算上そうさせていることが多い。この場合、生産性の向上は、売り上げを上げればよい。また、生産性は比率である。一般に限界生産物といわれる追加的投入によって生み出された追加的価値は、投入量が上がる毎に逓減すると言われる。(収穫逓減の法則)よって、投入量、例えば労働者や労働時間を減らすこと等によって、生産性の計算で分子がへることがあっても、それ以上に分母が減れば、計算上、生産性は向上する。不況期に生産性が向上することがあるのは、この理由による。この場合、生産性の変化は結果であり、生産性を向上させようとしても、その通りにはならない。生産性の議論は供給側の視点の議論になりがちである。生産性を向上させれば、一般に生産量は増える。需要がなければ、在庫が積み上がるか、価格を下落させるだけであり、経済成長には繋がらない。価格下落以上にコスト削減が見込めれば、生産者の生産増のインセンティブとなろうが、生産性の向上が経済成長となるためには、多く生産されたものが消費され、生産者の所得が増え、所得の増えた生産者が更に生産し、また消費者として更に消費するというような好循環が約束されていなければならない。

日本の生産性

生産性を測る方法としては、主に3つある。全要素生産性、資本生産性、労働生産性だ。生産活動は、資本と労働を投入要素とし、それらを使い生産技術によって生産物が生み出される。これを生産関数で表し、投入要素である資本で割れば、単位資本当たりの生産物、総労働時間(1人の労働時間×労働者数)で割れば、単位労働時間当たりの生産物が計算される。全要素生産性は、資本と労働投入と生産物との比を表す係数である。マクロ経済を見る場合、簡便な方法は、GDPを資本ストックで割った単位資本当たりのGDP、GDPを総労働時間で割った単位労働時間当たりのGDPを用いることが多い。国際比較でみると、日本の全要素生産性は、近年、他の先進諸国同様の伸びを示している。労働生産性では、製造業と非製造業では大きく異なる。製造業の労働生産性は先進国の中でも高い。特に、自動車、電機は高い。一方、非製造業の労働生産性は先進国の中ではかなり低い。しかしこれは生産物が低いというよりも、他の先進諸外国と比べ労働時間が長い、特に非製造業で顕著であるため、同様の付加価値を生産しても、総労働時間で割ると値が小さくなるからである。同様の理由で、韓国の労働生産性も低い。生産性は、効率を表す指標で絶対的な水準を表すものではない。経済的には、効率性よりも生み出した絶対価値が重要である。効率性が意味を持つのは、遊休資源がない最適な資源配分がされている状態の場合だけであり、実態経済においては、あてはまらない。例えば労働生産性向上で労働時間が減少しても、減少した時間分、他の生産活動に投入されないのであれば、単に余暇時間が増えるだけで、生産の水準が上がるわけではない。

生産性の計測

日本の生産性を計測する。日本は、製造業では、特に自動車、電機、機械の生産性が高く、国際的にもトップクラスであるのに対して、非製造業(サービス)業の生産性は低く、国際的にも大きく劣る。生産性を上げるにはどうすればよいか。生産性を本来の、生産量を得るのに必要な希少性のある資本や労働の投入量を最小化する、という定義では、すでに現状、どの企業も収益の最大化のため、コスト削減に取り組んでおり、現状からの改善余地は小さい。改善余地は、低生産性の企業や産業が市場から撤退し、高生産性の企業や産業に資本や労働力が移転することで、経済全体としての生産性が向上するのである。OECDのデータでは、先進国の全要素生産性を比較している。これによると、2000年以降日本も他の先進国同様、TFPはずっと上昇している。しかしTFPは、資本や労働投入の量とGDPとの差を埋め合わせるブラックボックス的な係数で、実態は定かでない。単位労働時間当たりのGDPである労働生産性でみると、他の先進国と比較して大きく劣る。これは労働時間が他の先進国と比べて多く、GDPを労働時間で割ると、値が小さくなるからである。日本の労働生産性が低いのは、労働時間の長さが原因である。特に非製造業の労働時間は長い。労働生産性を上げるには、労働時間を短くすればよいが、それでは生産量自体もさがってしまう。日本的経営慣行もあるので、容易には、労働生産性は上がらない。近年、急速にIT化が進んだ。IT投資は仕事の効率をあげ、生産性を向上させるために導入されたものだ。しかし、IT化によって、生産性が向上したかはよく検証されていない。確かに、日々の仕事で便利にはなったが、生産性は生み出された付加価値(金額換算)であり、便利になっても付加価値が増えなければ、生産性が向上したことにはならない。

国際収支で見る日本経済

海外進出と経常黒字

日本は貿易立国と呼ばれた。経常収支は、貿易収支と所得収支を合わせたものだが、貿易収支が大きく黒字となり経常収支も黒字が続いた。経常収支の黒字は、日本企業が貿易なり投資なりで海外でお金を稼いだことを意味する。黒字分だけ民間部門や家計部門の収入増となる。しかし近年、国内人件費の高コスト化、円高などにより工業品の輸出競争力に陰りが見え始めたこと、工場の海外移転が進んだことにより、輸出の伸びが輸入の伸びより鈍化するようになった。貿易収支は黒字幅が縮小するようになった。しかし、代わりに所得収支は貿易収支の黒字縮小とは逆に拡大するようになった。海外への工場移転と金融投資が増大した結果、海外子会社からの配当、投資の利息が増えたからである。

貯蓄減少と財政赤字

マクロ経済の公式では、国民総生産=国内消費+国内投資+政府支出+経常収支である。別の表現では、国民総生産=民間部門所得+家計部門所得である。バブル崩壊以降、国内消費と国内投資は低迷が続いているが、経常収支の黒字で国民総生産、そして民間部門所得と家計部門所得は増加基調を保っている。日本は今後高齢化が一層進むと言われているが、その影響を見てみよう。リタイア世代が増えると統計上、家計の収入が減少する。一方、消費の規模はあまり変化しない。この結果、支出/可処分所得である貯蓄率は減少する。貯蓄率の減少は家計部門の貯蓄を減少させる。家計の貯蓄は、銀行預金を通じて国債購入に充てられ、政府部門の赤字が賄われる。企業の貯蓄も金融機関を通じて国債の購入に回り、政府の赤字が埋められる。

国内消費と国内投資の水準が変わらない(増加しない)まま経常収支が赤字になると、国民総生産の減少、民間部門所得と家計部門所得が減少する。国債の購入が減り長期金利が上昇する。ここで注意したいのは、経常収支の赤字=長期金利の上昇とは、必ずしもならないことである。労働人口の減少は、国内生産量を減少させる。総人口が労働人口ほど変わらなければ消費は変わらず、輸出に回っていたモノが国内消費に回るか、輸入が増えることになる。労働人口の減少に応じて国内生産所得も減少するならば、貯蓄は減少する。ただし、労働人口が減少しても国内生産所得が減少しなければ貯蓄は減少しない。経常収支の変化に関わらず貯蓄が減少すれば国債の購入が減り長期金利は上昇する。財政収支は赤字なので、経常収支が黒字なら、家計収支+企業収支も黒字、経常収支が赤字でも大きくなければ、家計収支+企業収支は黒字となる。ここでいう収支は過去からのストックではなく今期の資産増分を表す。資産の増分のうち一定割合が国債購入に回るとすると、財政収支の赤字分を一定量埋め合わせることになる。しかし、財政収支が変化しないとすると、経常収支の減少は、家計収支+企業収支を減少させ、国債購入に回る分も減少し、長期金利の上昇を招くこととなる。

企業はお金がなければ、投資はできない。お金は、自前の現金(内部留保)か、増資・社債(直接金融)か銀行借入となる。内部留保と増資・社債は、ここの企業の業績やビジネス慣習・制度・法律に依存するものである。慣習・法律については固定的であると考えれれる。企業業績は集計的には経済の状態と関係するので時間的な変化がありえるが、外部から容易にコントロールされるものではない。

経済の状態を生産量(付加価値)で見るならば、消費されるものが生産される。つまり、生産量+輸入=消費+投資+輸出となる。消費は一般消費者によって行われ、投資は企業による消費である。生産量は、金額に換算され表されるので、所得でもある。所得はすべて消費者に還元されるとすると、それは消費に回るか貯蓄に回るので、所得=消費+貯蓄である。生産量の式から、貯蓄=投資+輸出-輸入となる。輸出-輸入=貿易収支なので、貯蓄-投資=貿易収支となる。一時期、日本経済は大幅な貿易黒字を生み出したが、これは、貯蓄-投資の差額が、貯蓄の多さに比べて投資の少なさが生み出したのである。

ここで注目すべきは銀行借入である。企業の資金調達手段として、以前は銀行借入が中心であった。近年、その比率は徐々に減少しつつあるが、中小企業においては、中心的な資金調達手段である。銀行借入では、利率が企業の借り入れ意思決定に大きく影響する。ある投資案件があるとする。投資の結果として生み出される期待利益を予想することによって、投資収益率が計算できる。この投資収益率が利率より高ければ、借り入れを決定し、低ければ借り入れは行わない。ここの企業の意思決定を集計的に捉えれば、利率が上昇すれば借り入れ総額は減少するのである。

金融政策の限界

政策金利、長期金利とも先進国の中で著しく低金利状態が続いている日本では、貸し出し率(貸し出し/預金)が低下傾向にある。金利と貸出の関係について見てみよう。金利と貸出量は、一般に需要側企業と供給側銀行との需給関係で決まると言われる。貸出量を横軸、金利を縦軸にとって供給曲線と需要曲線を描く。銀行が貸し出しに積極的となれば、供給曲線が右に移動し金利が低下及び貸出量が増大する。ここで供給曲線の右への移動の意味を考える。金利を所与として銀行が選択する供給量を表しているとすると、右へ移動することは、同じ金利でもたくさん貸し出したいことを意味する。これは銀行が持つ資金量が増えたか、安く資金を調達できるようになったか、リスク選好度が高まったかのどれかである。金利分のデフォルト率をpとすると、銀行のリターンは、R=(1-p)rIである。元本のデフォルト率をpとすると、銀行のリターンは、R=(1-p)rI+p(-I)である。投資Iは、無コストで確保できるものでなく、調達金利や機械費用がかかる。それを式に含めると、R=(1-p)rI+p(-I)p-vIとなる。pが小さくなるほどリターンのRが大きくなり、Iも増大していく。通常の財では、供給側の要因は、原材料価格や人件費、生産性などであるが、銀行の場合は、資金調達コストとリスクとなる。資金調達コストとリスクが供給曲線を動かす。一方、需要側である企業は、銀行から資金を借りて運転資金に回したり設備投資を行う。yを将来の経済状態予想とすると、企業のリターンは、R=E[u(I,y)]-pIである。金利が上昇すればRが下落し、資金需要Iも下落する。将来の経済状態予想であるyが上昇すれば、Rも上昇しIも上昇する。需要側の要因としては、業績見込み、経済状態予想である。どちらも将来のリターンの予想であり不確実性があるので、リスクと捉えることができる。結局、横軸に貸し出し量、縦軸に金利水準を置いた平面では、リスクによって需要曲線、供給曲線が動く。その結果、貸し出し量と金利水準が変化するのである。

日本経済の課題と対策

経済成長、これが限界なのか

日本は、今、バブル崩壊後、20年以上にわたって低成長時代に入っている。名目GDPで見ると、まったく成長していない。これは先進国では日本だけの現象である。しかし他の先進国も高度成長というより低成長に近い。一方新興国の中には、高成長している国が多い。何が高成長をもたらしているか。共通的に言えるのは、農業国から工業化を進めていること、輸出を伸ばしていること、国内設備投資が伸びていること、海外からの投資が多いことである。工業化によって、生産性の高い業種に資本や労働力が移動し、技術導入によって国際競争力を高め、輸出で稼ぐのである。もちろんこれらの国では個人消費も伸びているが、GDPに占める個人消費の割合が低く、GDPの計算では、輸出と企業投資が牽引役となっている。今まではインフラと技術力が課題となっていたが、海外からの投資、技術導入で容易に工業化が図れるようになってきている。新興国では人件費が安く、先進国並みの技術があれば、先進国より安く作り世界市場で販売することができる。輸出による売り上げ増で工場労働者の賃金が増えれば、国内消費も増大していく。ただし、これらのことは、工業化の余地が大きく、人件費の安い新興国だから可能となることで、先進国では、さらなる工業化の余地は小さく、人件費も高くなってしまっている。つまりは新興国の例は参考にならない。経済理論においても、有る程度の資本蓄積が達成されると、資本を維持するコストが増大し、機会摩耗が増えて、もうこれ以上は資本が増えない限界がある。つまり成長し続けることはできず、やがては低成長時代に入ってしまうのである。人口についても、先進国では伸びていない。日本においては、人口減少時代に入っている。となると、もう成長することは不可能なのか。ここで二つの道がある。一つは、欧州の小さな国のように、一人当たりのGDPを高く保ち維持する道である。もうひとつは、米国のように先進国であってもある程度の成長を達成する道である。前者の共通点は人口が少ないことであり、日本には適用できない。後者は参考になるが、その理由が日本に適用できるかである。米国では、移民が多く人口が安定して増加している。世界最大の市場であり、世界中から資本、お金、人材が集まってきている。このため、資本と労働力から計算する潜在GDPは安定的な成長が期待できる。もうひとつの特徴は、新興国とは異なり、工業化ではなく、第二次産業からサービス産業への移行が進み、サービス産業、IT産業が中心となっていることである。この点は日本も参考になりそうだ。日本は長い間製造業を中心に海外から技術導入を図り安くてよいものを生産し、国内で海外で販売してきた。人口が伸びず、国内市場が成熟化すると、輸出の割合が高くなり、輸出中心の経済となったが、為替の円高を招き、また世界市場でコスト的に不利な競争を強いられ、輸出依存体質では持続的な成長が見込めない。そこで日本の課題としては、以下のようになる。

  1. サービス産業を伸ばす。物による豊かさからサービスによる豊かさへと性格の質を高める。サービス業の発展の妨げとなっている規制を緩める。ITの活用を進める。
  2. 人口減少社会であっても、シニア世代は大幅に人口が増加し今後も増加し続ける。シニア世代を対象としたサービスを開発し、産業を育てる。
  3. 高齢化社会では、医療、介護がますます必要となる。医療、介護の市場化、産業化を図る。
  4. 輸入品の販売、サービスの輸入を拡大する。円高となれば、より安く販売できる。
  5. イノベーションによって、価格競争にさらされない高品質な製品を輸出する。

日本経済に必要な経済政策

日本経済は長期間に渡って低迷が続いている。この原因には、日本経済を取り巻く環境変化がある。環境変化が急激なため、経済主体である家計、企業、政府それぞれで、この変化に対応し克服しきれていない。家計と企業が対応できない分、政府が経済政策で家計と企業の対応を支援することが求められる。経済は基本的には民間(家計、企業)が主体的に環境変化への対応力を発揮するのが望ましい。政府が永久的に支援するのではなく、短期的に支援し、民間(家計、企業)の対応力が整うまで、その間を取り持つ形で支援を行うのが望ましい。

日本経済の環境変化

日本経済を取り巻く環境変化をリストアップすると、以下のようになる。

少子高齢化による国内市場(需要)の縮小

日本では少子高齢化が進んでいる。その度合いは、先進国の中でも一番である。少子高齢化は、人口の減少、人口の年齢分布の高齢化の両方を意味する。国内市場に与える影響には次の2つがある。

人口の減少による消費の減少

2005年ころから日本の人口は緩やかながらも減少に転じている。一人当たりの消費量が変わらないとすると、人口の減少は日本全体の消費量が減少する。景気状況に応じて増減の大きい設備投資や輸出入、政府支出に対して、一人当たりの個人消費はあまり変化しない。人口が減少しているのは、主要国では日本だけである。米国では人口は安定的に増加している。新興国では先進国よりも人口の増加率が高い傾向にある。人口の増加は、国内消費量の増加を通じて経済を成長させるが、日本の人口減少は経済の低迷要因となっている。

[対策]

人口が増加すればいいが人口増加策は経済学の範ちゅうを超えるので、一人当たりの消費量をいかに増やすかについて考える。人口が減少しても、一人当たりの消費量が大きく増加すれば日本全体の消費量は増加基調を保てる。家計収入が一定で消費が増えれば貯蓄の減少、負債の増加を招く。可処分所得が増加しなければ消費は増えない。結局、景気が良くなり企業業績が向上し賃金上昇がなければ消費には繋がらないことになる。経済成長すれば消費が増えることになるが、消費が増えれば経済成長することでもあり、堂々巡りとなってしまう。高齢化で中高年層の人口は増えているが、中高年層は将来不安があるため、消費を控え貯蓄する傾向にある。このことから、雇用と賃金対策、社会保障政策が重要となる。いづれも財政支出となりますから、有効な政策を打ち出すのは難しいと言える。国内市場の活性化が難しい場合は、輸出を伸ばし、企業業績を上げることで賃金の上昇に繋げる政策が有効である。

人口の高齢化による消費品目の変化、消費量の減少

企業は売り上げを確保するために、年齢構成上、層の厚い(その年代の人口が多い)年代層向けの商品・サービスをターゲット顧客層としがちである。かつては、収入があり消費が活発な世代である若者層向けの商品が主役だった。電化製品、自動車、スポーツ、レジャー、住宅などである。急速に高齢化が進んだ今は、若年層の数は減り、高齢者層が増えている。企業の商品開発は、この急速な高齢化に対応できておらず、市場規模が減少する若年層向けの商品から市場が増大する高齢者向けの商品への転換が進んでいない。高齢者にとっては、欲しいものがないという状況になる。なお、リタイア世代であれば、年金以外の収入はなく、今後の所得の増大期待がないこと、老後生活が不確実なことから、若年層に比べ消費は抑制されがちである。これらのことが、消費の低迷に繋がっている。

[対策]

世の中のニーズの変化に対応した商品開発は企業努力によるところが大部分であり、政府の経済政策としての範囲ではないとも言える。高齢者向け商品の開発への補助金が考えられるが、民間の企業活動への政府の干渉は、公正な競争の障害ともなりえる。社会保障政策により老後生活の不確実を提言できればよいが、財政負担は拡大してしまう。

少子高齢化による労働投入の減少で生産量(供給)の縮小

少子高齢化は、日本経済にとって需要面だけでなく供給面、特に次の2つの面において影響を与える。

人口の少子高齢化で生産年齢人口が減少し労働投入の減少で国内生産が低下

生産年齢人口は、経済活動に参加できる年代層で一般に15歳~60歳の人口を指す。高齢化が進むと60歳以上の人口は増えるがその分若年層の人口が減少し生産年齢人口も低下する。この人口は経済活動に参加できる人の最大数を意味するが、この数字の減少は実際の就業者数の減少に繋がる。人々の労働によって生産がもたらせられるわけであり、労働投入量の減少は国内生産の減少に直結する。一部製造業では、機械化・自動化が進み、資本投入で労働投入の減少をある程度補えるが、それ以外の産業(サービス業等)では労働投入の減少が生産量の減少に直結する。

[対策]

生産可能人口は、その国の人口構成で決まってしまうので、経済学の範囲を超えるものである。労働人口や就業者数を増やす政策が求められる。労働人口は、就業者数と失業者数を合わせたもので、労働意欲のある人口と言える。今まで労働人口に割合が低かった高齢者層と女性を労働人口に組み込むことで、労働人口を増加できる。基本は企業側の努力によるが、定年の延長、高齢者向け就業支援、自由な雇用形態の確立などの雇用・労働政策が求められる。就業者の増加には、新規設備投資の増大による新規雇用を創出するため、設備投資活性化策や、企業業績の向上による雇用者増を図るため、マクロ政策が必要となる。製造業は雇用の吸収規模が大きく、輸出の振興策や、国内工場での生産競争力の確保が課題となる。

少子高齢化による国内市場の縮小期待で企業の投入(資本、労働)が抑制

企業には、少子高齢化による国内市場の縮小期待が定着してしまっている。そうなれば雇用の増加や新規設備投資などで事業を拡大し売上を伸ばすことが期待できなくなり、企業の投入(資本、労働)が抑制される。投資の変化は、そのままGDPの計算に反映される。雇用の抑制は、家計の所得や賃金の低迷を通じて消費を抑制する。これもGDPに影響し、経済成長の抑制要因となる。

[対策]

国内市場の縮小期待を拡大期待に変える政策が求められる。資産価格の上昇策やインフレ期待の浸透も間接的に拡大期待となる。雇用政策や設備投資促進策も下支えになる。ただし、期待を変えるのは容易ではない。確信を持つだけの実績データが必要である。実際に経済成長が一定期間続いて初めて期待が出てくると言える。

新興国企業の成長と円高による国内及び輸出競争力の低下

経済のグローバル化が進展している。国際間で、人、モノ、カネの移動が活発になり、従来の日本国内で生産・販売し、国内で消費するという国内での経済循環が成り立たなくなってきた。経済成長も先進国だけでなく途上国の中にも大きく成長を遂げる新興国が現れてきている。

輸出で稼げなくなり国内生産の縮小で国内投資と雇用が縮小

新興国では工業化が進み、日本の製造業と海外市場で競合するようになった。今まで日本企業が大きなシェアを持っていたものが小さくなってきている。労働集約型産業では人件費の安い新興国が有利で、資本集約型産業においてもデジタル製品などは技術導入が容易で、この分野での日本のシェアは低下した。新興国企業の成長で海外市場で日本製品のシェアが低下してきている。新興国では、外国からの技術導入で力をつけ、日本の製造業と同様な製品を海外市場で販売できるようになっている。特にデジタル製品では、技術導入が容易で、安価な労働力を使い大量生産し日本からシェアを奪ってきた。円高も進んだため、海外収益が低下している。さらに円高によって、国内市場では安価な海外製品の流入が増大している。日本のお家芸である製造業のビジネスモデル(国内生産した製品を輸出して稼ぐ。)が立ち行かなくなった。国内市場が伸びない中での輸出の低迷は、国内生産を低下させる。海外市場での競争力を確保しようと、円高の影響を受けず人件費が安い海外での生産に切り替える企業が増えてきている。このため、国内投資と雇用が減少してきている。

[対策]

海外で生産するよりも国内で生産する方にメリットを感じるようにならなければならない。国内生産で競争力を確保するには、為替が円安レベルで安定、国内での人件費や材料費、エネルギーコストの低位安定、生産性の向上、技術革新による海外製品との差別化が必要だ。国内での人件費は高く、新興国での技術成長もあって、即効性の高い政策はない。唯一影響度が大きく即効性もあるのが、為替政策である。為替を円安水準で安定的に保てれば、国内の競争力は維持され、国内投資と雇用の環境が整えられる。

国内市場では輸入品との価格競争で企業業績が悪化し国内投資と雇用が縮小

新興国の工業化で日本にも工業製品の輸入が増えている。もともと新興国製品は安価で円高によりさらに低価格で輸入できる。国内での販売シェアが伸びれば国内企業の業績が低下する。業績悪化は国内投資と雇用を縮小させる。これは、GDP成長の抑制要因となる。

[対策]

輸入品に制限を加えることは、自由貿易の観点からいって好ましくない。ただ、為替が円高に振れすぎているのであれば、円安に是正することで、国産品の価格競争力は上がる。しかし、輸入品の価格上昇は、消費者にとっては有益ではない。よって、輸入品対策よりも、自由貿易の観点から輸出を新興することで国内経済の活性化を図ることが妥当な策となる。

デフレ経済による企業業績の低下、所得の低下

一般に経済が成長している国では、程度の差こそあれインフレとなっている。日本では10年以上に渡ってデフレが続き、他国と比較して特異な状況にある。デフレが経済に与えるマイナス要因として次のものがある。

売上の低下、賃金の低下、消費の低下がまた売上の低下を招き、悪循環で経済が低迷

デフレ下では、モノの値段が下がるだけではない。下がるのが物価だけであれば、実質所得は増大し、消費が落ちることはない。物価の下落には二つの側面がある。一つは供給側の技術革新でより安く生産販売できるようになったことである。もう一つは、需要が減少し、その結果、価格が下落していく場合である。後者の場合は、経済の低迷を意味する。デフレが問題となるのは、物価が下がることよりも、物価が下がるような経済状態を問題としている。デフレは、経済活動全体が低下していくことで、物価の低下、売上の低下、賃金の低下、消費の低下が連動し、それがまた売上の低下を招き悪循環で経済が低迷から抜け出せない様を言うのである。

[対策]

この悪循環を断ち切るには、売上、賃金、消費の低下のどれかを反転させる必要がある。売上が低下しているのに賃金を上げるのは業績悪化に繋がり実現可能性は低いと言える。賃金が低下しているのに消費を拡大させるのは容易ではない。よって、売上を上げる政策が残る。一つは国内消費が低迷しても、海外市場が拡大していれば、海外進出や輸出で売上を上げることができる。輸出企業の業績向上で賃金上昇、それによる国内消費拡大に繋げるのである。もう一つは、インフレである。インフレになれば、消費の絶対量が上がらなくても売上高は上がる。それに伴って賃金も上昇、消費額も上昇する。インフレなので実質賃金が上がるとは限らないが、ともかく売上、賃金、消費の低下の悪循環を断ち切るきっかけとはなる。

価格の低下期待が現在の消費を抑制し需要を低下させる

価格の低下期待は、裏を返せばモノに対してお金の価値が増加していることを意味する。モノより貨幣の価値が高まることは、モノを所有するより貨幣を所有するインセンティブを生む。モノは少し待っていれば安くなるから、必需品を除いて消費を抑制する。使わずにお金を持っていることが得になる。需要の低下は、企業の生産活動を抑制し、経済を低迷させる。

[対策]

価格の低下期待が根強い限り、企業では新規設備投資や雇用拡大、家計は消費の拡大に躊躇してしまう。インフレ期待に転換するためには、実際にインフレになることが有効であるが、政府の政策によって、「今はデフレだが、やがてインフレになる」と企業や家計が確信を持てば、期待を転換させることができる。政府のインフレ政策としては、モノに対して貨幣の価値を下げる政策、つまり貨幣の供給量を増大させる政策である。貨幣の供給量の増大は一般に資産価格を上昇させ、資産効果で消費や投資の拡大をもたらす。また、貨幣の価値が下がれば円安となり、輸入品の価格上昇で、インフレになりやすくなる。

デフレでは実質金利が高止まりし、投資を抑制する

お金の価値の増加は、企業にとっても投資でお金を使いモノを売ってお金を得るより、現金のままずっと持っている方が得だとの考え方ができる。インフレ下では、時間が経つにつれお金の価値が下がるので、返済がしやすくなり、借入が活発になる。一方デフレ下では、返済がしにくくなり借り入れが抑制される。物価変動を加味した実質金利で見れば、デフレ下では金利は高止まりし、借入による企業の投資活動は抑制される。経済の中でお金が滞留し、投資、労働、生産、消費という経済のサイクルが低調になってしまう。

[対策]

金融政策で金利引き下げによる経済刺激は、金利水準がゼロ近くになると使えなくなる。これ以上の引き下げは難しくなる。デフレでは実質金利が高止まりする。別の方法を考える。インフレ政策である。名目金利が安定した状態でインフレになれば、実質金利を下げることができる。借入を活発化し、企業の設備投資を促す。実質金利がゼロを下回るようにできれば、借入の負担がなくなり、借入の増加、投資や消費の増大に繋がる。

少子高齢化による財政支出の拡大と赤字化

高齢者の割合が増えれば社会保障費(医療、年金)の財政支出が増大する。一方、若年者の割合は減り、納税は増大しない。よって財政赤字が拡大することになる。財政赤字は一定程度に留めておかないと経済に悪影響が出る。

財政赤字の拡大は歳出削減と増税期待を抱かせ経済の成長期待を低下させる

財政赤字が拡大すると、政府は赤字を減らすために、やがて歳出削減や増税せざるをえなくなるだろうと企業や家計は予想する。歳出削減や増税は、消費や投資を抑制し経済にマイナスとなる。経済の成長期待が弱まると、将来に備えて貯蓄が増え、現在の投資や消費が抑制される。

[対策]

財政再建で財政赤字を減らすことが第一である。しかし、政府支出の削減は、それだけ需要の減少となるため短期的には経済にマイナスとなる。経済成長を抑えてでも財政再建を目指すべきかは議論のあるところだ。財政赤字が減少すれば短期的に経済にマイナスでも、将来の歳出削減や増税懸念がなくなり長期的にはプラスとなるとの考え方がある一方で、逆に財政を一時的に拡大し、景気を浮揚させ、税収増により赤字を削減していくべきだとの考え方もある。財政を拡大するかどうかよりも、ポイントは、短期的な財政政策と長期の経済見通しの両方をしっかり立て、企業や家計に将来の歳出削減と増税期待を抱かせないことである。

国債の消化にリスクが高まり、金利の上昇による政府支出の増大と民間投資の抑制

財政赤字の拡大は、国債による借金の増大を意味する。借金が膨らむと、返済に支障がでるのではないかと懸念する企業や家計が増える。リスクが意識されると長期国債が売られ、長期金利が上昇する。これは政府による国債の利払いが増えるだけでなく、金利上昇で民間投資を抑制してしまう。

[対策]

国債の市場での発行残高を抑制することが第一である。ただし、国債市場の需給関係だけで金利水準が決まるわけではない。国債を大量保有する金融システムの安定化、経済の成長政策や財政健全化政策で国債発行残高の将来の減少期待を抱かせられれば、短期的には国債発行残高が増えても金利への影響は小さくなる。なお、日本銀行による政策金利の低位誘導や国債の購入など金融政策によって市場金利や国債の需給関係に影響を与えることも有効である。

国債の保有者である金融機関の信用低下が金融不安となり経済にマイナスに働く

国債のリスクが意識されると長期国債が売られ、国債を大量保有する金融機関の信用が低下する。これが金融システム不安となり、株価下落、融資の抑制などを通じて、経済にマイナスに作用してしまう。

[対策]

国債の急落など過度な価格変動を生じさせないよう、国債の発行を需給状況を見ながら調整する。金融不安を生まないようにするため、金融機関が過剰なリスクをとっていないかどうか、常時、金融システムの監視を行う。危機発生時には日本銀行が金融システムに大量の運転資金を供給できるよう、平常時から体制や制度を整えておくことが対策となる。

少子高齢化、グローバル化に対応した産業構造の転換

少子高齢化への対応

人口及び人口構成の変化は、従来型の産業の構造とはミスマッチとなっている。かつては消費者の主力層は若者だった。しかし近年、若者向き商品の市場規模は縮小し、代わって高齢者向き商品市場が拡大している。最終消費財の製造業は縮小し、医療や介護の分野が市場規模を拡大させている。需要側の変化は大きいが、供給側はそれに追いつけていない。

[対策]

政府が成長分野の商品やサービスを指定し、その分野への補助金や低利融資、専門家派遣など支援を行うことが考えられるが、時代の変化に合わせた商品やサービスへの転換は企業側の自発的取組みが基本である。政府の政策としては、該当分野の規制緩和、労働者の教育訓練支援など、側面支援を中心に行う。

グローバル化への対応

グローバル化の進展は、海外製品・サービスとの棲み分けを促す。海外企業との国内市場、海外市場との競争力で国内で成長可能な産業を育てていかなければならない。

[対策]

グローバル経済における国内企業の競争力を確保するため、国内資本ストックの増大に繋がるインフラ整備を進める。研究開発支援、企業の海外進出支援を行う。グローバル人材育成のための教育訓練を支援する。

新市場を開拓し、サービス業の拡大、製造業の高度化で再度の成長を

日本の問題は、名目GDPが上昇しないことである。名目GDPの下落は、経済が成長しないことを表すだけでなく、将来の成長期待も持たなくなってしまうことである。そうすると、国内への設備投資意欲は薄れ、雇用にも影響する。資産価格が上昇しないので、資産効果も期待できない。価格は、需要と供給で決まるので、供給を下げることは縮小均衡となり好ましくない。需要を上げることで、デフレを解消させることが必要だ。需要側については、個人消費、設備投資、政府支出、輸出である。輸出は、日本製品の国際競争力を上げることだ。政府支出は財政状況を考えると増やせない。設備投資は、日本に成長期待があるかどうかで決まる。低金利で資金調達できてもリターンが見込める投資機会がなければ投資はされない。最後に残るは個人消費である。個人消費の増大期待があれば設備投資も促される。少子高齢化が将来進むことは確実視されている。少子高齢化は日本の市場が成長しないこと予見させ、企業の設備投資意欲を抑える。少子高齢化には3つの問題がある。一つは、人口の絶対数が減ってきていることである。人口減少は、消費者の数が少なくなることであり、市場規模の縮小、需要の低下となる。第二の点は、労働人口の減少で、収入を得る人が少なくなっている点である。収入がなければ、その人の支出は抑制される。需要の低下となる。最後のポイントは、人口構造の変化が、消費者の好みを、消費の量を変化させていることだ。今までの消費は若者が中心で、若者向けの商品が多かった。商品構成が変化しないまま、高齢化だけが進むと、消費者ニーズとのミスマッチが起き、ほしい商品がないとして消費の低下を招く。また、年齢によって、消費の絶対量も変わってくる。これらの点から、少子高齢化は、個人消費にマイナスの影響を与え、それがまた、国内設備投資に影響を与えることとなる。

少子高齢化自体は、経済学の範囲ではない。そこで、少子高齢化、人口減少を前提としたうえで、名目GDPをどうやって伸ばしていくかを検討したい。前述したように、国内市場はデフレで供給過剰な状態であるが、供給を抑えることは縮小均衡となる。成長には、供給を増やし、国内消費を増やし、海外輸出を増やしていかなければならない。海外輸出を増やすには、為替が円高であっても、国際競争力のある製品、つまりは、価格競争にならない独自に差別化された製品を開発しなければならない。一つは、研究開発により高付加価値化された製品だ。もうひとつは、製品というよりサービスの輸出を増やすのである。近年のIT化で国内から海外へサービスを輸出することが可能となった。また、海外で事業を転換しても、利益が日本企業に還元されるのなら、国内所得を増大させ、国内消費を促し成長につながる。需要が増えれば、企業は投資機会を見出だし、設備投資の増大を通じて供給の増大がもたらされる。需要、つまりは、国内消費を増やすことに帰着される。では、国内消費はどうやって増やすか。少子高齢化、人口減少を前提としたうえでのことである。人口減少を補う以上に一人当たりの消費をふやさなければならない。少子高齢化であるので、高齢者も所得を得るようにする必要がある。高齢者向けの消費を開発し、シニア市場を拡大していかなければならない。

日本は他の先進国と比べて製造業の比率が高く、サービス業への転換が遅れている。サービス業は、まさに顧客へのサービス提供するもので、生活の質を高め物質的な豊かさというより精神的な豊かさを得るためのものである。サービス業の利点は製造業と比べ、一般に、購入頻度が分散し需要の変動が少ない、サービスの質は多様で、単純価格競争にはならない、サービスの質を売り込むことで、製品であれば安い海外製品との競争がさけられないが、人件費が高くても競争できる、そもそもサービス業の発展で生活を豊かにできる、という利点を持つ。どのようにサービス業を発展させるか、具体的に見てみよう。人口の少子高齢化に伴い国内市場は成熟化し縮小していくといわれているが、拡大し続ける市場はある。シニア世代市場、海外市場、特に新興国市場だ。この市場をターゲットにしたサービス展開が期待できる。期待できる分野としては、サービス業である教育、金融・保険、宿泊・旅行、娯楽・趣味、通信・放送・インターネット、ソフトウェア開発、住宅、医療・介護、健康、飲食、人材派遣・家事代行、コンサルティング、新エネルギー事業などである。イノベーション分野としては、環境エネルギー技術、ソフトウェア・コンテンツ技術、バイオ医療技術である。


不動産価格の謎

90年のバブル崩壊依頼、不動産価格の下落が続いている。バブル以前は、不動産は値下がりしないとの神話があり、不動産を所有することは、その直接利用の便益だけでなく、資産価値の上昇という恩恵も得られた。90年までほぼ右肩上がりの状態が続いた。それまで経済が成長していたので、経済の成長につれて、直接利用価値(不動産から得られる利益の割引現在価値)が高まり、同時に、利用価値上昇が価格上昇期待を増幅させ、更なる価格上昇の原動力となる循環を生み、持続的な価格上昇となった。価格上昇の要因は、 不動産から得られる直接的利益の上昇、及び利益の上昇がもたらす価格上昇期待である。 不動産の購入動機は主に、住居としての使用、事業用建物としての使用、投機目的での購入の3つである。住居としての使用では、購入者の所得水準の制約を受けるため、経済が成長しても所得の伸び程度しか高価格を受け入れられない。事業用建物としての使用の場合、経済の成長で利用価値は高まるが、立地によって希少性からより価値が高まる場合はある。投機目的での購入の場合は、不動産の現在の価値より、価値が将来どう変化するかに焦点があたるので、価格の絶対水準より将来の価格予想で決まる。 80年代後半からは、価格上昇が顕著となった。経済成長を上回る価格上昇は、不動産から得られる直接的利益の上昇分を超えており、高い市場価格が成立するということは、価格上昇期待が強いからである。「高い価格」で購入しても、「更に高い価格」で売却可能であればよい。上昇していた価格が下落に転ずるのは、何かのきっかけで起きる。市場価格は、何かのきっかけなしに下落に転ずることすらある。きっかけとなり得るのは、住居としての使用を考える購買層の変化、事業用建物としての使用を考える購買層に対して、経済状況の変化である。住居として使用する場合は、購買層の人口統計学的変化、所得変動が需要変化をもたらす。併せて、価格の上昇も需要を低下させる。住居購入者は、その絶対的価値と価格を比べて売買決定をする。価格が上昇しても住居としての絶対的価値は変化しないので、価格の上昇は需要を低下させる。事業用建物としての使用を考える購買層は、経済状況が変化(悪化)した分だけ不動産から得られる直接的利益が減少するので、その分価格が下落する。しかし実際に起きたことは、急激な下落であった。これは、価格上昇が直接的利益の上昇ではなく、価格上昇期待によって形成されていたことを示す。需要と供給の関係でも見てみよう。価格が急落するということは、需要の減少だけでなく、供給が急拡大したことにも起因する。不動産を売却するには、空き部屋、更地、すぐに再使用可能な状態にするなど、購入者が利用できる形になっていないと売れない。売却取りやめ等供給を減らすことは急にできても、供給を急に増やすことは物理的に難しい。供給の急拡大は、それまでの需要が、すぐに売却できる状態で不動産を保持する投機的動機に基づくものであったことを示す証左である。もうひとつは、建物等の不動産の供給における時間差である。建物等の不動産は、販売計画を立て、建設し、実際に販売されるまで時間がかかる。経済成長時に強気の販売計画を立て供給量や価格を設定した場合、予想に反して需要の低下が起きた場合、供給量をすぐにはコントロールできない。需要の変化に供給を対応させられないので、供給過剰となり価格低下を加速しやすい。このような理由で、何かのきっかけで、それを境に「上昇期待」から「下落期待」に変わり、価格急落となる。 不動産価格の変化の特徴として、一般の市場価格とは異なる変化となることが挙げられる。市場メカニズムによる価格形成は、急落後に市場の需給を通じて「適正価格」が見いだされて価格が安定するものである。この場合、経済状況が好転すれば、価格が再び上昇軌道に乗る。しかし、不動産の場合は、急落後に「適正価格」で安定することはなく、急落前に大きく上昇した場合、だらだらと下げ続けることが多い。価格は需給で決まるのだが、「適正価格」を見いだせない状態が長期に続くのである。不動産価格の特徴は、一定の上昇の後、ある時期急激に上昇しピークを付けた後、急落し、その後だらだらと低下し続ける状況が長期にわたって続くのである。バブル崩壊後の価格変化を分析する。住居としての使用、事業用建物としての使用、投機目的での購入の3つの購入動機で考える。