創業入門

事業を決める

何をやりたいか

創業することを考えているということは、すでに何をやりたいかがイメージを持っていることと思います。しかし、やりたいことを会社の事業とするためには、次のことを考慮しなければなりません。会社として設立したなら、その会社を存続させ、継続してその事業を行っていけるかです。そのためには、①やりたいことを具体的手順で書き表すことができるか、②やりたいことで収益を上げることができるか、③やりたいことの達成基準と達成したらどうするか、です。

やりたいことを事業化する

一番目の点、①やりたいことを具体的手順で書き表すことができるかでは、事業が他者にも分かる形で明確化されていないと、設立の手続き、資金の調達、仕入れや販売先の獲得で他者の同意が得られないし、そもそも自分自身が事業が何たるかを理解できません。2番目の点、②やりたいことで収益を上げることができるかでは、利益を上げる仕組みを持っているかどうかです。事業には会社の設立費用、初期投資、不動産・設備費、仕入れ、人件費、光熱費など費用がかかります。少なくとも費用を賄うだけの事業収入が得られる見込みがないと事業を継続できません。三番目の点、③やりたいことの達成基準と達成したらどうするかでは、主観的である「やりたいこと」を客観的な「事業」に変えた場合の、客観的な事業評価が可能かどうかです。事業の評価ができないと、改善策検討などの経営管理ができません。事業評価によって達成が確認された場合、それを維持していくのか、更に高い目標設定を行うのか、会社の継続性を考えた場合に、今だけでなく会社の将来の見通しも考えておく必要があります。

事業を視覚化する

「やりたいこと」は、まず自分の頭の中で固められます。会社として事業を行うのであれば、資金を提供してもらったり不動産・設備を調達したり公的な支援を受けたりなど、他者の協力支援が必要となります。頭の中にある事業イメージを紙に書いて他者が理解できる形になっていなければ、協力は得られません。紙に書くことで、自分自身が理解する形で、漠然としたイメージを視覚化し、更に具体化させることができます。視覚化する方法は自由ですが、一つの方法を紹介します。

事業の全体図を描く

まず事業の対象物を決めます。販売であれば販売するもの、サービスの提供であればサービスの内容、開発製造であれば、その製品です。「会社」を図の真ん中に書き、会社と会社外部とのやり取りを図にします。通常、会社の外でやりとりする相手は、販売先(顧客)、仕入れ先です。対象物とお金の流れを書き込みます。収益は主に販売先(顧客)から得ることになるので、顧客対象の明確化(年齢層、地域層、嗜好性等)を行います。物の販売ですと、顧客との関係は1回きりと考えがちですが、アフターサービス等の考案など、引き続き顧客となるような工夫も必要です。モノであれサービスであれ、対象顧客に何の付加価値を提供できるかを意識します。付加価値としては、また利用したくなるような、ここでしか得られないと思わせる満足感や利便性などです。

競合する商品や他社が存在する場合は、それも図に含めます。競合する商品や他社との競争力・差別化を考えます。資金調達が必要なら調達先も記入します。資金調達は初期費用のことだけでなく、日常的な運転資金の確保も重要です。仕入れ先や提携会社も重要な役割です。安定した仕入れの確保、提携会社との役割分担で事業としてできることが広がります。企業を取り巻く環境が記述できたら、会社内を視覚化します。事業の手順を、商品の流れ、情報の流れが見えるように図案化します。これはフロー図です。手順をつくることによって、どこで費用が発生するかが分かります。詳しく記述できれば業務マニュアルともなります。

計画書をつくる

計画の意義

頭の中にある事業イメージは、そのままでは漠然としたイメージのままです。紙の上にアイデアを書き出し体系化することで、事業を具体化します。計画書にまとめ上げれば、事業内容や課題・目標の明確化など自分のためになるだけでなく、他人が事業内容を理解することができ、他者(金融機関、協力業者、公的支援機関)の協力を得るための資料にもなります。

事業内容をつくる

事業内容を具体化する際の検討項目は以下のとおりです。

  1. 5W1H(どこで、誰に、何を、どのように、提供するのか。)で事業を具体化する。
  2. 提供する商品/サービスを明確化する。
  3. 自分の強みとアイデア及び事業環境がもたらす機会から、独自性/優位性を見いだす。
  4. 対象とする顧客を明確化し、顧客に提供する価値を考える。
  5. 営業活動(広告宣伝、販促手法、顧客サービス、情報提供)を立案する。
  6. 事業を行うに十分でかつ効率的な体制を考える。
  7. 戦略(顧客ターゲット、価格帯、差別化、ウリ・アピールポイント)を考える。
  8. 商品、顧客、サービス、情報、場、ネットを組み合わせ、相乗効果を検討する。

事業を成功させるには独自性/優位性の確保が重要となりますが、「大当たり」を狙うのではなく、自分の持つ小さな強みを積み重ねることで大きな強みに、自分のアイデアの小さな差別化を積み重ねることで大きな差別化が可能です。商品、サービス、提供方法など小さな独自性/優位性を組み合わせて、総合力で勝負するようにします。

事業計画をつくる

会社は継続的に事業を行う存在です。事業をどう継続していくか、また事業をどう発展させていくか、時系列で計画を立てると分かりやすくなります。創業期には、創業前の準備段階、創業段階、事業初期段階、中期段階と時間の経過とともに、事業の在り方、管理の仕方が変わってきます。会社に必要な要素を項目立てして、時系列で今後の計画を記述します。事業計画では、需要予測を客観的に行い、主観的な要素をなるべく入れないことが肝心です。将来展望は楽観的になりがちで、右肩上がりの売上計画を立てがちです。ベストケースだけでなく、ワーストケースも考え、どちらのケースでも会社の事業の存続に影響のないような計画とします。

資金計画をつくる

事業を行うには資金が必要です。初期費用として創業時には大きなお金が掛かります。創業後も運転資金が必要です。創業前の準備段階、創業段階、事業初期段階、中期段階と時間の経過とともに、必要な額、資金調達方法が変わってきます。コストの積算は、直接経費と間接経費に分け、操業度に対する変動費、固定費を把握します。売上が収入で費用が支出ですが、一定の売上があることをあてにした資金繰りでなく、十分に安全性を見込んだ余裕のある資金計画とします。資金計画では売上、経費の見積もりだけでなく、利益、売上高利益率、損益分岐点を計算し、売上の変動を加味した利益計画を立てます。

体制をつくる

社内の体制表を作成します。始めは1人又は少人数かもしれませんが、役割の分担、想定する仕入れ先や取引金融機関、アドバイザー等も含めておきます。組織構成は法的な会社設立に必要な定款の作成時にも必要となります。出資者の構成、取締役会の構成も立案します。

定款を作成する

法的な会社設立には定款の作成が必要です。定款の書き方はほぼ決まっているので、定められた方法で記載します。内容は、すでに作成した計画書の内容に沿って書きます。定款の作成、申請、登記によって、法律上の会社が設立されたことになります。手続きには社名、取締役、社印を決めておきます。

経営理念、経営目標を決める

経営理念は、事業活動によって成就する長期的な達成目標で、事業活動を通じて顧客や社会への貢献を図る内容を書き表します。経営理念は事業活動を長期継続的に行うことによって得られる究極的な目標でもあります。経営目標は、経営理念よりは具体的で、経営理念を達成するために必要な段階的な達成基準で数値化される場合が多いです。

事業目標を決める

事業目標を定めると、目標達成には何をすればよいか見えてきます。事業目標としては、売上目標、利益目標、事業規模(事業の範囲、組織、従業員数)などがあります。代表的なのが売上目標ですが、単なる願望で数値を定めるのではなく、客観性のある計算式で積算して定めます。例えば、地域の商圏の潜在顧客数から見積もった客数と、それを基にした客単価×客数×営業時間による売上予測などです。

短期の事業目標を決める

目標を設定しても、その目標達成への道筋が見えていないと、敢然としたものになります。また、途中段階で現在の状態が目標達成に向け順調であるかの進捗状況が把握できません。目標は、中長期と短期の両方を定めます。企業の発展段階に応じて、創業前の準備段階、創業段階、事業初期段階、中期段階それぞれに、その段階での達成目標を定めます。事業を始めてみないと分からないことは多いですが、目標も状況に応じて、変更していってかまいません。何事も良い方向に行くとは限りません。計画どおりに進まないこともあるので、予想と外れた場合の事業計画と目標設定も合わせて検討しておく必要があります。

事業計画書の作成

事業計画書の構成例は以下のとおりです。

  1. 事業内容(どこで、誰に、何を、どのように、提供するのか。)
  2. 提供する商品/サービス
  3. 独自性/優位性
  4. 対象とする顧客
  5. 顧客に提供する価値
  6. 営業活動(手法、サービス、情報提供)
  7. 体制
  8. 必要な設備資金/運転資金
  9. 資金の調達方法:自己資金、借り入れ
  10. 資金繰り計画
    1. 売上
    2. 仕入/材料費
    3. 人件費
    4. 事務所費
    5. 営業活動費
    6. その他雑費
    7. 利益
    8. 設備投資
    9. 累積損益
資金繰り計画の例
科目創業前創業初期安定期
売上高010002000
仕入/材料費05001000
人件費0100200
事務所費100100100
営業活動費05050
その他雑費05050
利益0200600
設備投資50000
累積損益-600-400200

創業準備

経営資源を確保する

経営資源とは、人、物、金、情報のことです。経営資源がないと事業活動ができません。それぞれ何を、どのように調達するのか、事前に検討が必要です。見落としがちなのは、情報です。社内、社外での情報の流れを想定し、必要な設備の確保、人の教育訓練を実施します。

資金を確保する

創業には資金が必要です。創業計画書にて設備投資に必要な資金額、当面必要な運転資金額を見積もります。その原資となるのは、自己資金と借り入れです。借り入れは後に返済が義務となるお金ですから、計画立てて返済が可能か返済計画も立てましょう。また、創業時は会社の信用がありませんから、信用保証(保証人)や担保の問題で必要額を借り入れできない可能性もあります。次に述べる創業支援策を活用すれば、補助金を受けたり、低利融資、無担保、無保証人での融資が可能になる場合があります。

創業支援策を活用する

国、自治体、公益団体、金融機関には、様々な創業支援策があります。活用を検討してみます。支援は主に、創業時の必要資金を援助する補助金、低利融資、無担保無保証人融資、信用保証、会計や税務のコンサルタントによる経営相談、販路開拓や異業種交流にかかる費用の援助等です。手続きには様々な書類の作成を求められることが多いですが、書類を作成することで、事業の形が明確化することもあります。

設立の手続きを行う

法的には、定款の申請、登記で会社設立ですが、実際には、事務所や店舗を開設して初めて会社ができたことになります。株式会社の設立、口座開設、納税、社会保険などの手続きがあり、法務・税務、保険の専門知識が必要ですから、創業支援策で提供される専門家による経営相談を活用しましょう。

創業

周知活動をする

会社が設立されたら、潜在顧客層、取引先等に会社を知ってもらう必要があります。会社の商品やサービスも周知します。周知には、かつての職場関係先の訪問、チラシ広告の作成と配布、インターネットの活用(メール、ウェブサイト)があります。始めは知名度が低いので、販売促進活動に力をいれます。特売セールや割引券、無料招待券、会員カード発行等です。設立時だけでなく、常に情報発信し続けることも大切です。情報発信ツール(ウェブサイト、メール、チラシ、ポスター、POP広告)をフル活用します。

経営を管理する

スタートさせたら、経営管理方法を確立しておきます。基本は、Plan Do see action です。計画し事業を実行し、やりっぱなしではなく、必ず事業の状態を評価します。そして改善策を検討し計画を見直し事業改善します。経営はこれの繰り返しです。事業の状態の評価は、事業の記録をとり分析することです。事業の記録は、伝票の記録整理、経理簿の作成、資金繰り表の作成などを行い、常に経営状態を数字で視覚的に把握できるようにします。経営管理を行うことで、計画通りに進めることができたり、予想がはずれ計画通りに進まなかった場合でも事業改善と軌道修正によって目標に到達できるようになります。

資金を管理する

事業を始めれば、売上による入金も仕入れ、事務所費、人件費などの出勤も毎日のように発生します。あらかじめ用意した運転資金が枯渇しることがないよう、日々の入出金を必ず記録することで運転資金の状態を管理しましょう。正しく記録するには簿記の知識が必要ですが、知識がなくても月単位の資金繰り表を作成・記録することで資金管理ができます。資金の記録は、運転資金の管理だけでなく、損益計算書(年単位)や貸借対照表(年単位)の作成の際の元データ、納税手続きの際の元データ、経費について固定費と変動費の区分をつけることができれば、損益分岐点の計算など経営分析の際の元データとして活用できます。分析結果は、次年度の経営計画へ反映させます。

小さな改善を一つ一つ積み重ねる

創業前は分からなかった課題や問題点が、実際に事業を始めると気づくことがあります。また、計画通りに事業が進んでいたとしても、さらに業績を向上させる可能性があります。課題や問題点について常に注意を払い、改善を図っていく必要があります。例えば、売上を向上させるために、売上=来店客数×購買確率×購買単価×リピート率であるので、来店客数アップのアイデアの積み重ね、購買確率アップのアイデアの積み重ね、購買単価アップのアイデアの積み重ね、リピート率アップのアイデアの積み重ねを常に図っていくことです。また、情報発信をし続けることも大切です。創業時は周知のため潜在顧客への情報発信が意識されますが、創業後時間が経つにつれ、おろそかになりがちです。様々な手段を通じて、常に情報発信(広告宣伝、紹介、提案、専門知識の提供)に努めましょう。